赤信号

息抜きに外へ出た。

夜の空気は冷たく澄んでいて、歩きながら深く呼吸をすると煮詰まっていた頭が冷えていくような感覚がした。
この感覚はとても好きだ。
上からパラパラと雪が降ってきて、携帯で気温を見ると0℃と表示されていた。
 
 
いつものようにコンビニに向かい、ホットココアを買った。
喫煙スペースの隣に立ち、容器を振ってからココアを一口飲んだ。全身に甘さが広がっていくような気がした。
キャップを緩く閉めてから家へ歩き始めた。
 
 
この時間になると車も滅多に通らず、遠くからでもタイヤの地面と擦れる音がよく聞こえる。
にも関わらず信号機は点滅せずに、規則的に赤と青を繰り返し続けていた。
 
 
信号機の意味はなんだろう。
主な目的は安全のためだと思う。
それならば、安全と確認できさえすれば赤信号でも横断歩道を渡っていいのだろうか。例えばこの周囲に車の一台も見当たらない横断歩道の赤信号を。
 
 
青信号になるまで待ち、横断歩道を渡った。
しばらく歩くと後ろから車の進んでくる音が聞こえてきた。歩道のない道だったので、少し左へ寄った。
人通りも少ない夜だったせいか、標識の制限速度よりもスピードが出ていた、ように感じた。夜だから速く感じたのかもしれない。
すぐ隣を鉄の塊が通過したにも関わらず、恐怖や焦りは微塵もなかった。
 
 
道路というものは信頼の積み重ねなのかもしれない、と思った。
車は左側を通行する、人は路側帯を歩く、赤信号は進まない。決められたルールに従って、この道路に信頼が積み重ねられてきたのだと思った。
 
 
だからすぐ隣を車が通過しても恐怖はない。信頼があるからだ。
車線もなにも引かれていない空間で、こちらのすぐ隣を目がけて数千kgの鉄の塊が突っ込んできたら、それはきっと恐怖だ。本能が命の危険を感じ、とっさに逃げようとすると思う。
 
 
赤信号を渡らないということは、その道路に信頼を積み重ねる行為なのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えながら歩いていたら家の前に着いたので、少し冷えてしまったココアを飲み干して、玄関のドアを開けた。